2020年1月25日

「泪橋」から見えた ヤマの男
お話し/ 多田裕美子 (写真家・映画喫茶「泪橋ホール」店主)

 ――山谷にある玉姫公園で、1999年から2年間、山谷の男たちの肖像を撮らせてもらった。現在の山谷は、街の風景も人の姿もその頃とはちがってきた。時が経っても変わらない120人の男たちのポートレイトを見ていると、写真屋のネエちゃん、と言いながら写真のなかの男たちが私に何かを語りかけてくる。
 私はしばらくご無沙汰していた山谷の男たちの声に耳をすましてみた。酔っぱらっていたり、東北訛りで何を言っているかわからないことばかりだったが、その声は私の記憶からはなれない。
 今も玉姫公園にある三本の銀杏の木。天高くのびるこの木に、男たちからもらった山谷の残像がかさなって見えてくる。(『山谷ヤマの男』―多田裕美子〔写真と文〕-まえがきより)
 浅草生まれの写真家の多田裕美子さんは、20年前、玉姫公園(映画「山谷」でも夏祭りや越年・越冬闘争の場として出てくる)で山谷の男たちのポートレイトを撮った。その数は120。山谷では労働者にカメラを勝手に向けたりすれば、まずは猛烈な反発をうけるが、たぶん、そこには独特な緊張感と、それに信頼感があったにちがいない。今回は、そんな写真家としての多田裕美子さんに、あわせて2019年の2月から始めた映画喫茶「泪橋ホール」の店主としての話もうかがう。

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