2024年11月3日

『暴動の時代に生きて ’68-’86 山谷』 (中山幸雄/著)を読んで
コメンテーター : キムチ (元・現場闘争委員会/山谷争議団)

中山幸雄が語る、寄せ場の、熱い暴動の季節を駆けぬけた活動家たち の闘いの軌跡、そして生と死をふりかえり、次代につなぐことばを読み解く。

【本書の梗概】1968 年夏、暴動の嵐吹き荒れる山谷に鈴木国男、船本洲治、中山幸雄ら四人の若ものが降りたった。それは寄せ場を牛耳る暴力手配師、悪質業者、地域ボス、マンモス交番との妥協なき闘いの烽火であった。
山谷自立合同労働組合、全都統一労働組合から悪質業者追放現場闘争委員会、そして 6・9 闘争の会、山谷争議団へとつらなる闘いをたどり、「労働者解放旅団」と称された活動家たちの軌跡をふ りかえる。 [月曜社、2024 年 10 月刊]。

2024年9月28日

天皇制の「経営学」
 ──格差社会のなかの特権・差別構造

桜井大子(『反天ジャーナル』編集委員会、女性と天皇制研究会)

単純な比較をしてみよう。天皇制の維持経費は、皇室費に宮内庁・皇宮警察費を足して年265億円を超える。皇族は天皇(前・現)家の2世帯5人、その他4世帯12人だから合計17人。たった17人のための出費だ。ちなみに天皇・上皇ら5人の生活費は3億2400万円。仮に頭割りにすると一人6480万円。総理大臣の年収は約4000万円だからそれを超える。いま話題の秋篠宮家は4人で1億1895万円。もちろん原資は全部、税金だ。
一方、その税金を払っている者たちはどうなってるのか? 政府は、最低賃金の全国平均を1054円に上げたと自慢している。だがこの賃金で身を粉にして働いても年に200万円に届くかどうかだ。もちろんこれはフルタイムの場合で、非正規労働者たちの多くは、実際にはこれ以上の貧困にさらされている。──これは絶対にヘンだ。
天皇制は、端的にいえば「天皇」ひとりを作りだすために維持され、管理・運営される制度だ。皇族の枠はそのために配置されている。政府は今年、天皇の再生産を安定化させるために、皇族の数の確保という方策を提出した。男性の皇族を増やしたり、女性皇族の結婚後の身分を保証するなどの案だ。これもまた天皇をめぐる「経営学」のひとつだろう。
今回の〈ミニトーク〉では、反天皇制を中心に持続的な運動を続けている桜井大子さんを招いて、最近の政府の動向や、社会の受け止めかたなどのお話を聞きます。あらゆる角度から徹底的に天皇制を批判していきたいと思ってます。ぜひ、ご参集のほどを。

2024年8月8日 ベルリン上映会報告

この上映会はドイツ・ベルリンのSavvy Contemporaryで開催された表現と労働に関する展覧会 “Labo*r - An Invitation To Action… A Basis For Hope” の一環として行われました。

2024年8月、イスラエル占領軍によるガザでのジェノサイドが始まって10ヶ月が経過しており、多くの人にとってこの上映は深い悲しみと怒りの中で行われました。ベルリンにはヨーロッパ最大のパレスチナ人コミュニティがあり、主に非西洋諸国のアーティストの作品を展示するSavvy Contemporaryのコミュニティにもパレスチナ人やパレスチナ解放運動に関わる人が多く含まれます。その反面、ドイツ政府はイスラエルへの無条件の支持を掲げて、パレスチナに関連する言論の弾圧を強化しています。

 

会場となったSavvy Contemporaryも、一つ間違えれば施設の閉鎖につながることが通告されている厳しい状況下での開催でした。

上映会には多様な移民ルーツを持つベルリン在住の人々約50人が参加しました。山谷や釜ヶ崎の運動に長年関わってきた経験を持つ参加者もおり、上映後には1時間半のオープン・ディスカッションが行われました。

最初に、山谷や釜ヶ崎をはじめとする寄せ場の現状や歴史的な背景について、現地の知識を持つ参加者から説明がありました。その後、現代のギグワークが非常に不安定な雇用形態であり、日雇い労働と類似している点や、イタリアで移民労働者を管理するマフィアの存在など、様々な感想が参加者から寄せられました。

また、佐藤監督や山岡監督の殺害、イスラエルによるパレスチナ人のジャーナリストや作家の暗殺について、抑圧に抗う文化労働者の身体的危険や弾圧についての議論が行われました。イラン出身の参加者が、イランで秘密裏に映画の上映会を行うコレクティブの活動と、そこに在籍する知人が政府により収監されていることを共有しました。

 

また、Savvy Contemporaryのような「脱植民地」をテーマにした文化施設が、ドイツ政府によるパレスチナに関する言論統制に屈していることに対して批判の声が上がりました。労働運動やパレスチナ解放運動のような人々の生存に直結する政治課題が「芸術」として消費されることへの危機感と、既存の構造の中からの変革を起こす限界についての議論が交わされました。

最後に、本上映会を含むアートスペースがどのようにして特定の人々を排除し、地域の再開発に加担しているかについての問題提起があり、ディスカッションが締めくくられました。ベルリンは、文化事業に豊富な公的助成金を提供していることもあって、世界中から多くの文化労働者が集まります。弾圧や紛争で出身国を追われた人も多く、ドイツのリベラル化された文化経済ではそのマイノリティの「痛み」や「記憶」を表現することが労働として評価されます。しかし、公的助成金に依存する既存の構造では、政府の弾圧に抗うことができないことが明らかになりました。文化を通じた抵抗を根本的に見直す必要がある今、「山谷ーやられたらやりかえせ」と40年以上続くその上映運動から多くを感じる上映会になったように思います。

(吉川彬 記)

2023年12月3日

寺島珠雄と「労務者渡世」をめぐって

前田年昭(調理補助パート労働者、元「労務者渡世」編集委員会代表)

 今回のミニトークのテーマは「寺島珠雄」です。寺島珠雄はアナキズム詩人。1925年東京生まれ、千葉で育つ。戦後、土工や鉄筋工などの肉体労働をしながら山谷などを流動し、66年以降、大阪・釜ヶ崎に移り住んだ寄り場の大先輩です。73年、「新日本文学」2月・5月号に寺島編「釜ヶ崎語彙集(抄)」を掲載(この「語彙集」の完成版は寺島の死後、2013年に新宿書房から上梓された)。74年、月刊の雑誌「労務者渡世」の創刊に参加する。「労務者渡世」は76年に16号分がまとめられ、風媒社から単行本『労務者渡世──釜ヶ崎通信』として刊行された。
 寺島はまたアナキズム詩史に通じ、『時代の底から 岡本潤戦中戦後日記』、『小野十三郎著作集』全三巻などを編集。著書も多数で、詩集『まだ生きている』『わがテロル考』『あとでみる地図』ほか、自伝『どぶねずみの歌 廻転し、廻転する者の記録』、『釜ヶ崎 旅の宿りの長いまち』『アナキズムのうちそとで わが詩人考』他、がある。1999年、『南天堂 松岡虎王麿の大正・昭和』の出版間際に死去した。
 今回、お話くださるのは、当時の釜共闘(暴力手配師追放釜ヶ崎共闘会議)メンバーで、寺島さんと「労務者渡世」を一緒につくった前田年昭さん。前田さんは新宿書房版『釜ヶ崎語彙集1972-1973』の編集者でもある。

2023年5月20日

〈脱走する主体〉へ
──ソウル・プレカリアート運動の歴史的形成 

トーク : Didi (人文地理・都市研究)

今回は韓国・ソウルからDidiさんを招いてお話を聞きます。
Didiさんは、2017年の末に山谷を訪れて以来、山谷の運動と併走しながら、先鋭的な研究を続けてきている。それは、「東京とソウルのプレカリアート運動の歴史的形成過程と、その運動の中で作られた都市的コモンズについての比較研究」(今年の1月に刊行された、Didi・他〈監訳〉『被害と加害のフェミニズム』のプロフィール紹介より)という魅惑的なものだ。
今回は私たちの要請に応じて、ソウルの運動に重点を置いた報告をしていただく。おもに「1960年代と1970年代のソウルの 〈月の村〉の形成と、その中で作られた都市住民運動が、現在のプレカリアート運動にどうつながっているのか」を話していただきます。
〈月の村(タルトンネ)〉とは、60年代初頭からの、韓国の急速な近代化の中で、都市部に人が急激に流入して形作られた〈貧民街〉だ。都市の下層民が生み出した闘いが、今の新自由主義の時代にどう息づいているのか? そして、新しい世紀のプレカリアート運動が持っている可能性は、どこに向かっているのかを探ります。